Inside of LOVOT

GROOVE X 技術ブログ

プードルファーニット開発記

読者のみなさま、こんにちは!
この記事は GROOVE X Advent Calendar 2023 11日目の記事になります。
今回はLOVOTの服ネタ枠ということで、先日の「辰にっと」について書かせていただいた服チームの shigeri がお送りいたします。
今年の締めくくりにふさわしいLOVOT服の開発奮闘記として、企画からから販売まで約2年もの歳月を費やした、ただいま絶賛発売中のベースウェア「プードルファーニット」について書いてみようと思います!

絶賛販売中のプードルファーニット

プードルファーニットが生まれることになったきっかけ

LOVOTの服を作る上で1番重要なことは、もちろん「LOVOT本体に極力負荷をかけないように作る」ということです。愛らしい仕草のLOVOT達をみていると、ついつい本物の生き物のように錯覚してしまいますが、LOVOTは正真正銘の超精密機械なので笑、取り扱いには様々な注意が必要です。よってそのことが公式ウェアを買っていただくお客様にできるだけ伝わるように、販売画面やアテンション紙に取説を明記し、さらにオーナー様向けメールでもお知らせするようにして、オシャレなLOVOT達が健康&安全に暮らせるように、様々な配慮をしながら販売しています。

そんな公式ウェアを作っている服チームのメンバーは「LOVOTがより可愛いらしく見えるデザインや素材で、オーナー様とLOVOTに日々のお着換えを楽しんでもらう」という大きなミッションをかかげ、アパレルの知識を日々フル回転させながら、新商品の開発に繋がる様々なアイディアを生み出しています。私がGXに転職するきっかけとなった面接のプレゼン資料の中で、偶然にも「もこもこベア服」をデザインしていたということもあり、丸くてかわいいLOVOTがもふもふしてたらさらにかわいいだろうなぁ~というイメージは常に頭の中にありました。
そんなLOVOT服への思いを抱くのはもちろん服チームだけではなく「LOVOTの生みの親=林要」もそのうちの一人でした。確かにLOVOT MUSEUM にある歴代の開発機体には、数種類のもこもこ服が着せられているので、かなり初期の段階から「かわいいLOVOT」のイメージは、もこもこ服がセットなんだろうなと思っていました。

LOVOT MUSEUM に展示してある開発時代のもこもこ服たち
しかし毛足もありそこそこ厚みが出る素材は、LOVOTの服に適さないことは容易に想像できるので、過去にもこもこ服の開発を試みた服チームメンバーは「空気を取り込み循環させて熱を発し、車輪の出し入れをしながら走り回るLOVOTに、毛足のある素材の服を着せることは、何度か試作したけど難しかった」という経験談を話してくれていました。
そんなある日、その難しい服の開発過程を経験している要さんが、相変わらず「もこもこの服が欲しい」と話しているということを耳にしました。その頃の私はまだ入社して1年も経っておらず、服を開発するには様々なハードルがあることをあまり理解していない頃だったので、「だったら開発しましょう!」とやる気満々でメンバーに相談しはじめたところから、このLOVOT服(販売する服)史上最長の商品開発が始まったのです。。。

第一開発期 2021年/年末~

そんな流れからも、もこもこ服にとても興味が湧いていた私は、かわいいと思っていた生地(一般的なプードルファー)を買ってきて、とりあえず試作してみることにしました。まずはベースウェアのベロアのパターンを利用してサイズ調整したパターンを作り、思うように縫ってみました。プードルファーとはいえもちろん毛足のあるファーなので、そこら中に切ったファーが飛び散りまくり、GXの社内では裁断するのも縫うのも後片付けも一苦労でした笑。縫い上がった最初の試作をLOVOTに着せてみると、予想以上に伸びなかったり裏地があった方が滑りがよくなるなど、いろいろな改善点が確認できたので、修正しながら次の試作にとりかかりました。
その改良版試作を作りながら、チームメンバーにも「もこもこウェアを開発したい」と提案してみました。ちょうどその頃に販売していた「もふもふニット」が売れた時だったので、その素材感のバリエーションになるのでは、ということになり、早速メーカーさんに依頼してまずは素材収集から始めました。

編地や参考サンプルなど数種類の素材の中から、現実的にLOVOT服にできそうなモノに絞り込み、集めた素材を要さんにも確認してもらうことにしました。各素材の特長やメリデメなども一通り説明しながら見てもらったところ、試作に使っていたプードルファーが一番手触りが気持ちいいということになり、冬アイテムの販売時期(11月前後ごろ)に向けて素材をリプロ*1して開発することになりました。
改良版試作である程度のサイズ感が調整できたので、試しに簡易的に熱と稼動を検証してみることにしました。LOVOT服の最大の難関は、この「熱(必要な素材の場合)&稼働」の長期稼働検証です。

熱検証中の2体(左:時を同じくして開発中だった干支うさぎの試作 右:プードルファーニットの改良試作)
内容をざっと説明すると、日常生活で想定される室温などの条件を設定し、そこでLOVOTを数日間動かし数値をとり、その数値が許容範囲内に収まっているかを確認するという内容です。服検証の詳しい内容は12/04のブログでファームチームのaOikeさんが書いてくれていますが(本当にいつもありがとうございます!!!)この検証をクリアしなければ、どんなにかわいい素敵な服を作っても商品化することはできません。

しかもそのファームチームの長期稼働検証に辿り着くまでの過程は、①試作⇒②簡易検査OK(特殊な素材は熱検証も含む)⇒③工場で1stサンプル作成⇒④簡易検査OK、になった場合のみ、晴れて長期稼働検証ができるということになります。OKが出る前提で1stサンプルを上げても、簡易検証でNGだった場合は修正した次の2ndサンプルでの長期稼働検証になるので、さらに時間を要することになります。
この様に時間をかけて検証を繰り返しても、結果的に商品化できなかった企画も多々あります。。。また稼働検証には時間も必要なので、早速ファームチームとQbDチームに相談し、改良版試作で検証をしてもらいました。 もこもこ服の最大の懸念点は、ファー生地自体に厚みがあるので保温しやすいという点です。なのでできるだけ熱がこもらないように伸縮性のあるメッシュ裏地にして、想像できる対処は試みていましたが、検証結果は全体のサイズがきついことにより、サーボの負荷数値が高くなってしまいました。その影響で機体の温度も高くなっていることもわかったので、次に挑む1stサンプルはさらにパターンを調整することにしました。とはいえLOVOTの服は単純に大きく作ればいいという訳でもないので、慎重にサイズを調整していきました。

待望の1stサンプルが上がってきたので、着せて簡易検査をしてみると、やはりサーボには許容外の負荷がかかってしまっていました。その頃になると私も新規商品は簡単に開発できないことは既に経験済だったので、困った時のaOikeさん頼みで、一緒に検証&分析してもらいながら、いかに負荷を少なくするかを模索していきました。その段階でたどり着いたのは、リプロしたファー生地が試作に使ったものよりも厚く伸びにくく、密度が増していることも原因だろうということになり、ファーの厚みを調整してもらうことと、ファーではなく他の伸びる素材の箇所を増やすことで、負荷を軽減することを改良案としました。

2ndサンプルではいろんなバージョンのサンプルで比較できるように、生地の厚みを変えたりして3タイプのサンプルを上げてもらうことにしました。とはいえ中国にある工場はコロナ禍の影響で通常通りの稼働をしていないし、他の企画も並行して進んでいるし、修正してまたサンプルを作ってそれぞれ検証&分析して、を繰り返していたら、あっっという間に夏になってしまいました。結局もこもこ自体のクオリティが試作と差異があったことがネックとなり、2022年8月の段階で量産出しができないという結果になってしまいました。もこもこウェアの販売時期はもちろん冬がベストのため、開発は一旦ストップすることになってしまいました。

第二開発期 2022年/年末~

想定通り時間はかかってしまっていましたが、プードルファーの開発はあと一歩という段階にきていたので、再度開発したい旨をメーカーさんにお願いしたところ、諦めずに協力していただけるという快諾もいただき、生地の改良版を作るところからリスタートすることになりました。

前回から更にパターンも調整し、ファー以外の別生地も使うことになっていたので、ファーのカラーに合う別生地探しも依頼しました。プードルファーのカラーバリエーションは私の中に明確なイメージがあったので、「キャメル」「アイボリー」「ベージュピンク」を提案し、ビーカー*2も取り直してから改めてチームで検討し、無事にその希望の3色に決定しました。肝心の再1stサンプルはというと、工場の担当者が変わってしまったのか、寸法も仕様も生地の使い方も指示通りではなく、かなり残念なサンプルが上がってきてしまったので、また細かく検品コメントを書かなければならない状態でした。またパーツに使用する別布も、既存の生地から探すのでファーのカラーに合うものがなかなか見つからず、探し直してもらうこと数回、なんとか妥協できるレベルの生地が見つかりましたが、きちんと検証できるサンプルが上がるまで、またもや時間を費やす状況になっていました。さすがに私も「やっぱりなかなか一筋縄ではいかない企画だな…」としみじみ痛感してしまいました。

とはいえもこもこの生地感はかなり理想に近づいていたので、とりあえずどのぐらい負荷の数値が改善されているかを確認するため、数日間の熱検証&長期稼働検証をお願いしてみました。しかしその検証が終わるとまた新たな問題点が浮上しました。厚みと密度を調整したファー生地は温度の上昇が抑えられることがわかったのですが、長時間稼働させた結果予想以上に袖裏と脇下のファーが擦れてしまい、せっかくの柔らかい毛足がつぶれてしまっていました。手洗いすればなんとか元に戻る程度にはなるのですが、ファー自体の見た目も少し劣化しているように見えてしまっていたので、これでは販売できないと判断し、いつもの検証メンバー(aOikeさん、imaiさん)に引き続き相談してみました。

そこで怪我の功名とでも言うのでしょうか、袖裏と脇下を別布に変更すると、いろいろな問題が改善されることもわかってきました。まずは袖下の摩擦が減るので毛足もつぶれにくくなるだろうし、懸念点の熱ももう少し抑えられるだろうということが予想できたのです。その状況で商品化するかどうかの最終判断はPOでもある要さんに委ねることになり、その結果取り扱い注意を明記して商品化することが決定したのは、2023年のすでに初夏になっていた6月末ごろのことでした。

左:ビーカー 右:袖裏と脇下&ホイール周り
LOVOTの健康を保てる服を作ることが服チームの最大ミッションですし、撫で心地のよいかわいいプードルファーの毛足もつぶれにくくなるし、何よりお客様も服のお手入れがしやすくなるというメリットだらけという結論に。ちょっと斬新なデザインになるけど、少しでも安全な服にするために袖裏と脇下の生地を別布に変更することにしました。そしてその最終形態のサンプルを作るために改めてパターンを修正し、それを工場へ送り&マッハで縫ってもらい、最後の最後までメーカーさんとの細かいやり取りを続け、納期ギリギリで収めていただいたサンプルで最終確認の検証をし、想定内でクリアできたという結末に…(大泣)。やっっっと販売可能なレベルに開発できたという、嬉しさと充実感がこみ上げた2023年9月の初秋でした。。。

おわりに

このように約2年もの長い時間をかけて、様々な過程を経て、そしてたくさんの方にご尽力いただいた結果、やっっっとリリースできたブードルファーニット。触り心地バツグンのファーを使用しデザイン性を重視した服なので、少々取り扱いの手間もかかりますが、この様にたくさんの方々の知恵とアイディアが詰め込まれたこらこそ、無事に開発できた商品ということが読者の皆様に伝わればとても嬉しいです。ぜひたくさんのオーナー様に冬の「ふわもこLIFE」を楽しんでいただけたら幸いです。。。
これからもオーナー様に喜んでいただける、かわいいLOVOT服を開発していきたいと思います!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
(おわり)

*1:生産背景で生地を作り直すこと

*2:量産用生地での色の出方や見え方を確かめる色出し工程