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GROOVE X 技術ブログ

「開発チームじゃない」ハードウェア生産チームに”ガチ”スクラムを導入したら、個人の集まりが『チーム』に変わった話 ~「なんちゃって」を卒業し、ソフト出身スクラムマスターの「理想論」を乗り越えるための戦略~

(GROOVE X Advent Calendar 2025 9日目の記事です)

はじめに

こんにちは、GROOVE Xでスクラムマスターをしている志賀です。 普段はハードウェア開発から生産、アフターサービスまで、複数のチームを横断的にサポートしています。

今日お話しするのは、「生産チーム(Industrial Engineering team)」でのスクラム導入事例です。 ここは、いわゆるソフトウェアの開発チームではありません。家族型ロボット『LOVOT』の生産工程設計や品質管理など、ハードウェア製造のど真ん中を担うチームです。

「ハードウェアでスクラム?」「生産チームで2週間スプリント?」 そう思われるかもしれません。実際、私たちも最初は「なんちゃってスクラム」の壁にぶつかっていました。

今回は、生産チームが「守破離の”守(Shu)”」を徹底することで、個人の寄せ集めから本当の「チーム」へと生まれ変わった軌跡をご紹介します。 (※この記事は、現場で変革を主導したメンバーである酢屋さんと高岡さんの取り組みを、スクラムマスターの視点から紹介するものです)

1. 「なんちゃってスクラム」の限界と痛み

元々、このチームではスクラムのイベント(会議体)だけは導入していました。しかし、実態はいわゆる「なんちゃってスクラム」でした。

ハードウェアや製造業のカルチャーとして、どうしても「慣れ親しんだウォーターホール」の思考が根強く、以下のような「痛み」を抱えていました。

  • 「個人商店」の集まり 「チームで協力してコトに向かう」というより、「個人の専門性で仕事を回す」意識が強い状態でした。お互いの仕事内容を深く把握しておらず、助け合う密度が低い状態です。
  • 不明瞭なバックログ PBI(プロダクトバックログアイテム)をチームで作る習慣がなく、Who/Why/AC(受入条件)が不明瞭なまま。「とりあえずタスク化」されているだけでした。
  • 終わらない会議 タイムボックス(時間制限)の意識が薄く、議論が長引く割に結論が出ないこともありました。

「事業の緊急対応はなんとか乗り切れる。でも、チームとして強くはなっていない」 そんな停滞感が漂っていました。

2. 転機:なぜ「私が」言わなかったのか(スクラムマスターの戦略)

チームメンバーが増強され、少し余裕が出てきたタイミングで「次のステップへ上がるには今しかない」と感じました。

しかしここで、私はあえて「スクラムマスターである私(ソフト業界出身)から強く推進する」という形を取りませんでした。

なぜなら、ハードウェアの現場には、「所詮、ソフト出身の人が言う『理想論』でしょ?」という、見えないが分厚い壁があるからです。 どれだけ正論を並べても、外から来たコンサルめいたポジションの人間が言うと、「現場を知らないくせに」と心のシャッターを下ろされてしまうリスクがありました。

「ハードウェアの現場を変えるのは、ハードウェアの人間でなければならない」

そう考えた私は、ある「仕掛け」をしました。私の心の師匠であるMJ氏が講師を務めるCSM(認定スクラムマスター)研修に、チームのキーマンであり、バリバリのハードウェア出身者である酢屋さんと高岡さんを送り込んだのです。

狙いは一つ。「やらされるスクラム」ではなく、現場のリーダーたち自身が「これをやりたい!」と声を上げる状況を作ることでした。

3. 「ソフトの真似事」という声を打破したもの

研修から戻ってきた二人の熱量は、私の想像を超えていました。 彼らは「自分たちがやっていたのはスクラムではなかった!ちゃんとやりたい!」と衝撃を受けて帰ってきたのです。

しかし、導入当初はやはりチーム内で反発がありました。

  • 「スクラムの合う部分だけ取り入れればいいのでは?」
  • 「2週間で終わらない業務(認証試験など)はどうするんだ?」
  • 「正直、ウォーターフォールの方が楽だ」

これらは突き詰めると、「イメージできないことはやりたくない」、そして「ソフトのやり方を無理やりハードに持ち込むな」という拒絶反応でもありました。

この時、突破口になったのは、他ならぬハードウェア出身の酢屋さんと高岡さんが先頭に立ったことです。

もし私が「とりあえず教科書通りやりましょう」と言っていたら、「それはソフトの話ですよね」で終わっていたかもしれません。 しかし、同じ釜の飯を食ってきたハードウェアの仲間が「騙されたと思って、まずは型通りやってみよう」と言い切った。

「スクラムはスポーツのようなもの。ルール(型)を覚えずには試合にならない」

この事実が、「ソフト屋の戯言」として片付けられそうなスクラム導入を、「自分たちの挑戦」へと変えたのです。

4. 実行した「守」の3つの施策

こうして始まった「守破離の”守(Shu)”」。具体的に行ったのは、泥臭いまでの基本の徹底です。

守破離とは他者の型を真似る段階から、独自のスタイルへと進化していくプロセスを指します。まずは基本から体得することを指しています。

  • 守:型を真似る(基本)
  • 破:型を崩す(応用)
  • 離:型を離れる(独創)

① 毎日「スクラムガイド」を輪読する

「言葉が通じない」を解消するため、CSMを受けた2人を中心に、毎日の昼会で少しずつスクラムガイドを音読しました。

「スプリントとは?」「完成の定義とは?」 共通言語ができることで、チームの会話の質が変わっていきました。

② 「振り返り」のアクションをPBI化して強制力を持たせる

振り返り1
振り返り2
振り返り3

これまで「振り返り(レトロスペクティブ)」で出た改善案は、通常業務に忙殺されて「やりっぱなし」になりがちでした。 そこで、「振り返りのアクション(Try)は必ずPBIに昇格させる」という鉄の掟を作りました。

タスク管理ツールのWrikeを活用し、振り返りで出たカードを自動的にPBIとして登録するフローを構築しました。

これにより、改善タスクが「いつかやる雑用」から「通常の業務と同等の優先度を持つ仕事」に格上げされました。結果、改善活動が確実に「Done(完了)」されるようになりました。

③ 2週間の壁を超える「構造化」

構造化

最大の難関は「2週間(1スプリント)で終わらないタスク」です。 例えば、外部機関への「認証試験」は結果が出るまで数ヶ月かかります。これをどうスクラムに当てはめるか?

私たちは、タスクを「自分たちでコントロールできる単位」まで分解しました。

  • 「見積もりを取得する」
    • 相手次第でいつ来るか不明。スプリント内に終わるか運任せ。
  • 「見積もりを依頼する」
    • 自分次第で完了できる。確実にDoneにできる。

このように、「申請」「準備」「依頼」といったアクション単位でPBIを切ることで、ハードウェア特有の長いリードタイムを持つ業務でも、2週間のスプリントの中で進捗を可視化し、達成感を得られるようにしました。

5. 変化:個人の集まりから「チーム」へ

変化・良かったこと
「守」を徹底してしばらく経った今、チームの景色は変わりました。

  • 意識の変化 「自分の仕事」から「チームのゴール」へ意識がシフトしました。お互いの業務に関心を持ち、誰かが詰まっていればフォローする動きが自然と生まれています。
  • 優先順位の鮮明化 2週間という厳しいタイムボックスがあるからこそ、「今、本当にやるべきことは何か?」を真剣に考える習慣がつきました。
  • 成果の実感 以前はずっと放置されていた改善タスクが、次々と完了していく。この小さな成功体験の積み重ねが、チームのモチベーションになっています。

おわりに

まだ私たちは「守」の段階です。しかし、型を徹底することで見えてきたのは、「あやふやだった苦しさ」から解放され、チームで前に進む楽しさでした。

ハードウェア領域だから、生産チームだから、スクラムはできない? そんなことはありません。

現場のキーマンを巻き込み、まずは「ちゃんと」型にはまってみる。そこからしか見えない景色が、確かにありました。

そんなハードを含めた様々な仕事をスクラムで進め、模索している僕らと、一緒にお仕事してみませんか? 是非、下記募集をご確認ください。 recruit.jobcan.jp

(文:GROOVE X スクラムマスター 志賀 / 取り組み主導:生産チーム 酢屋, 高岡)