こんにちは。GROOVE Xのスクラムマスターの niwano です。
今回は何回かに分けて、スクラムマスターと「領域人事」の兼任について書きたいと思います!
スクラムマスターが人事?という違和感から始まった
「スクラムマスターが、人事をやるんですか?」
この話をすると、だいたい最初にこう聞かれます。
そしてその次に来るのが、
- それって中立性壊れません?
- チームから信頼されなくなりません?
- 便利屋になりません?
という、まっとうで正しい懸念です。
結論から言うと、
この懸念は全部“正しい”です。
ただし、それは「人事」という言葉から想像される役割を前提にした場合の話です。
この記事では、
- なぜスクラムマスターが「領域人事」と呼ばれる役割を兼任することになったのか
- それは一般的な人事やマネージャーと何が違うのか
- なぜ今のフェーズでは必要だと判断したのか
という背景と思想を整理します。
※ 本記事は、フラットな開発組織・アジャイル前提の話です。 ※ 評価・報酬・異動などの「人事権」をスクラムマスターが持つ話ではありません。

フラット組織で起きがちな「人の問題が宙に浮く」現象
私たちの開発組織の一部はフラット組織です。
- フラット組織は2階層しかない。
- マネージャー的役割は全員が分担する。
- チームが自己設計・自己管理する前提
これはアジャイルやスクラムとの相性も良く、
開発スピードや当事者意識という点では大きなメリットがあります。
一方で、必ず起きる問題があります。
それが、
「人の問題」「組織の問題」を誰が扱うのか分からなくなる
という問題です。
例えば:
- チーム内の摩擦や対立
- 役割の曖昧さからくる不満
- 暗黙の期待がズレたまま進む状況
- 仕組みの欠陥が原因なのに、個人の問題に見えてしまうケース
マネージャーが明確に存在する組織であれば、
これらは自然と「マネージャーの仕事」になります。
しかしフラット組織では、
- チームに任せたい
- でもチームだけでは扱いきれない
- かといって誰かが強い権限で介入するのも違う
という 宙ぶらりんな状態 が生まれやすくなります。
「じゃあ誰がやるの?」問題への暫定解として
この状態が続くと、だいたい次のどれかが起きます。
- 声の大きい人が非公式に仕切り始める
- 問題が放置され、突然爆発する
- 人事や経営に“いきなり重たい形”で上がる
どれも、フラット組織が目指している姿とはズレています。
そこで出てきた問いがこれです。
過渡期の今、誰が「人と組織の問題」を受け止めるのか?
この問いに対する暫定的な答えが、 スクラムマスターが「領域人事(組織開発ファシリテーター)」を兼任する という設計でした。
なぜスクラムマスターだったのか
これは消去法でもあり、必然でもあります。
スクラムマスターは本来、
- チームの自己管理を促進する
- プロセスの問題を構造として扱う
- 個人を責めず、仕組みを改善する
- 中立な立場でファシリテーションする
という役割を持っています。
つまり、
- 人を評価しない
- 指示命令しない
- 決定権を持たない
- でも、対話と構造には深く関わる
この性質は、
- 人事権を持つマネージャー
- 制度設計を主とする人事部
とは明確に異なります。
逆に言えば、
人事権を持たないからこそ、扱える「人の問題」がある
ということでもあります。
「領域人事」とは何で、何ではないのか
ここで重要なのは、
この役割が 「人事」ではない という点です。
少なくとも、一般的に想像される人事ではありません。
やらないこと(明確にやらない)
- 評価・査定
- 報酬・昇給の決定
- 人事異動の意思決定
- 労務・コンプライアンス判断
やること
- 従業員間の紛争解決(一次受け)
- 組織・チームのプロセス改善支援
- 育成や学習の仕組みづくり
- カルチャーの言語化・醸成
- 「この問題、どこで扱うべきか」を整理する
あくまで 組織開発のファシリテーター であり、 決める人ではなく、整える人 です。

これは「完成形」ではなく「過渡期の設計」
とても大事なことなので強調します。
このロールは、
- 永続的にやる前提ではありません
- スクラムマスターがずっと抱える仕事でもありません
目指しているのは、
チーム自身が、人と組織の問題を扱えるようになること
そのために一時的に、
- 問題を受け止め
- 構造として整理し
- 仕組みや役割に分解し
- 徐々に手放していく
という役割です。
スクラムマスターも、 この「領域人事(組織開発ファシリテーター)」も、 本質的には「いずれ不要になる仕事」 だと思っています。
この記事のまとめ
- フラット組織では「人の問題」が宙に浮きやすい
- その過渡期の受け皿として、スクラムマスターが選ばれた
- それは人事権を持つ役割ではない
- 決めるのではなく、整えて手放す仕事
- この役割を永続させないことがゴールである
次回は、 「人事権のない人事」は本当に機能するのか? という点を、もう少し踏み込んで整理します。
このシリーズについて
- 第1回:GROOVE Xでは、なぜスクラムマスターが「領域人事」を兼任することになったのか(本記事)
- 第2回:「人事権のない人事」は矛盾か?
- 第3回:スクラムマスターはどこまで「人の問題」に関わるべきか
- 最終回:スクラムマスターと領域人事は、いずれ不要になる