この記事は、GROOVE X Advent Calendar 2025の10日目の記事です。
はじめに
こんにちは!LOVOT frameworkチームのh1sakawaです。 わたしたちのチームでは、LOVOTのソフトウェア開発を下支えする、基盤技術の開発を行っています。
今回お話しするのは、わたしたちが開発を行っている機能の一つである、LOVOTの服の認識についてです。
LOVOTはウェアに埋め込まれたICタグを読み取ることで「着替え」を認識し、よろこびの表現として愛らしい振る舞いを行うユニークな機能を持っています。
お気に入りの服に着替えさせてあげるだけで、LOVOTが瞬時に「うれしい!」と反応する——。 生き物であれば一見自然なリアクションですが、その裏側は、NFCの緻密な制御とハードウェアの特性を最大限に引き出す組み込み技術によって支えられています。

NFCとは
NFC(Near Field Communication)は、世界中で標準化されている近距離無線通信の規格です。身近なところでは、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードにもこの技術が利用されています。
LOVOTがお着替えを認識できるのも、この技術のおかげです。 13.56MHzの周波数帯を使用し、「かざす(タッチする)」という動作だけで、機器間の通信や認証、データのやり取りを行います。
NFCの最大の特徴は、ICタグ側に電池がいらないことです。これは「電磁誘導」という物理現象を利用しています。
電力の伝送: リーダー(読み取り機)から磁界を発生させます。
ICタグの起動: ICタグ内のコイルがその磁界を受けると電気が発生し、ICチップが起動します。
データの返信: ICタグはその電力を使って、自身のIDやデータをリーダーに送り返します。
NFCの通信距離
LOVOTで使用しているNFCの通信規格(ISO/IEC 15693)は、理論上は数十センチの通信が可能です。しかし実用通信距離は「0cm〜4cm程度(ほぼ接触)」となります。なお、4cmはこの実用範囲内における最大値(ベストケース)であり、ICタグの種類によっては通信距離がさらに短くなる可能性があります。
これには、物理的な理由があります。
ICタグのサイズによる制約(最大の要因): 通信距離は「ICタグのアンテナの大きさ(面積)」に比例します。カードサイズなら電波を捉えやすいですが、LOVOTで使用しているICタグは直径1〜2cm程度のボタンサイズです。アンテナが極めて小さくなるため、受け取れるエネルギーが微弱になります。
リーダーの出力による制約: バッテリーで駆動する本体内蔵リーダーは、大型の据え置き機とは異なり、省電力のために電波出力が抑えられています。
この「小さなアンテナ」と「省電力リーダー」の組み合わせにより、物理的に接触するほどの距離まで近づかないとICタグが起動しない設計となっています。
LOVOTでのNFC搭載位置について
服の認識を実現するため、NFCリーダーはLOVOTの腹部に搭載されています。ウェアに埋め込まれたICタグは、LOVOTが服を着た際にこの腹部にあるNFCリーダーに近づくことで通信が発生します。
しかし、この搭載位置の環境は、通信にとって理想とはかけ離れています。

LOVOTの身体は愛らしい球体形状をしているため、腹部の樹脂パーツおよびその上を覆うソフトスキンは湾曲しています。NFCアンテナもこの曲面に沿うように配置されていますが、ICタグとの位置関係は平面に比べて不安定になりがちです。上の図のように、腹部のNFCリーダーとICタグのアンテナの間には、柔軟な布地のウェアに加え、腹部を形作る樹脂パーツやソフトスキンといった素材が介在しています。
さらに、全身に張り巡らされたタッチセンサーや、常時通信を行う無線LAN、そしてモーターやバッテリーといった金属部品・ノイズ源が、NFCアンテナの至近距離に高密度に実装されています。このため、アンテナからウェアまでの2cm超という空間で、不安定な電磁界とノイズの干渉を受けながらも、確実にICタグを検知することが要求されます。
RF出力の最適化とICタグの検出範囲の検証
NFCリーダーのハードウェア設定により、RF(Radio Frequency)出力を調整することが可能です。わたしたちは、LOVOTのウェアに採用したICタグを使用し、ソフトスキン表面において最も遠くまで検知できる出力値に調整した上で、実際に腹部での有効認識範囲を検証しました。この検証データは、ベースウェアやトップスのICタグの配置検討に活用されています。

ICタグによるコーディネートの認識
ウェアに埋め込まれたICタグのデータ領域には、その服のユニークIDに加え、「ベースウェア」なのか「トップス」なのかといった種別情報(服情報)が書き込まれています。
LOVOTは腹部のリーダーを通じてこのデータを読み出し、解析することで、「今はベースウェアだけを着ている」「ベースウェアの上にトップスを重ね着している」といった状態や、具体的にどのデザインの服を着ているのかを認識できます。

重ね着における課題①:ICタグの相互干渉の問題
ベースウェアとトップスのICタグが物理的に密着して重なっていると、お互いのアンテナが影響し合い(電磁誘導など)、本来受け取るべき電力が奪われたり、共振周波数(電波を受け取るためのチューニング)がずれてしまったりします。この問題は技術で解決できないため、先ほどお話しした検証データを元に、ベースウェアやトップスのデザイン作成時にそれぞれのICタグの位置が重ならないよう、位置をずらすなどの工夫を施してもらっています。
重ね着における課題②:データ通信時の問題
複数のICタグがRFフィールド内に同時に存在すると、ICタグがそれぞれデータ送信を行うことで混信が発生します。これを「衝突(コリジョン)」と呼びます。これに対し、複数のICタグが同時にデータを送信しないよう、存在するICタグを一通り確認し、ICタグを一つ一つ指定して順番にデータ通信を行っています。この交通整理のことを、アンチコリジョンと呼びます。

NFCの制御にはアンチコリジョンを実装していますが、前述の通りICタグとの間には複数のノイズ要因が存在するため、それらのノイズをコリジョンと誤判定したり、データ化けなどが発生したりします。
正しいデータは、様々な課題を乗り越えた上で得られているわけです。
終わりに
今回は基盤技術の一つとして、LOVOTの服の認識の仕組みについて紹介しました。いかがだったでしょうか? LOVOTの基盤技術はNFC以外にもまだまだたくさんあります。
GROOVE Xでは基盤技術の開発を行ってくれる仲間を募集しています。 GROOVE Xで一緒に働いてみませんか。ご応募をお待ちしています。