
この記事は、GROOVE Xアドベントカレンダー2025 の4日目の記事です。
はじめに
こんにちは、技術組織デザインチームの junya です。
最近、社内での提案資料や企画書を書くことが多いのですが、 自分の提案の背景にある仮説に思いを馳せることによって、課題に対する解像度が上がる ことを実感したので、それをご紹介します。
お題
ここでは以下の2つの行動指針について、考えてみます。
- 依頼には質の高い成果物で応えよう
- 情報は自分で取りに行こう
皆さんの会社にも、このような行動指針があったりしませんか?
この行動指針の裏にある、隠れた前提条件(仮説)について考えてみます。
行動指針の裏にある仮説
これらの行動指針は、基本的には有用であるものの、極端に言えば、以下のような状態を仮定していないでしょうか。
依頼には質の高い成果物で応えよう
- 依頼者は、自分が欲しいものを完全に言語化してくれている
- 質は高ければ高いほうが良い
情報は自分で取りに行こう
- 全員が情報に対するアクセス権を持ち、何がどこにあるか分かっている
- 人は自分の欲しいものがわかる
この前提条件(仮説)が成り立たないとどうなるか?
多くの場合は、このような前提条件を仮定しても問題ありませんが、常に当てはまるとは限りません。 これらの前提条件が整っていない(仮説が通用しない)ケースで、何が起きるか考えてみましょう。
依頼には質の高い成果物で応えよう
- 一生懸命1週間かけて作ったものを「全然違う」と言われて、手戻りが発生する。
情報は自分で取りに行こう
- アクセス権があって各所にコネクションがある古参は無双できるが、アクセス権がなくて「何が分からないかも分からない」新人は右往左往する。
心当たりあるのではないでしょうか。
こういうことが発生すると、その問題を解消するために、逆方向の価値観への力学が働きます。課題を解決するための新しい行動指針を考えてみましょう。
新しい行動指針(アンチテーゼ)
課題を解決するために、新しい行動指針を立ててみました。
- (新)早く成果物を共有して、早い段階でフィードバックをもらおう
- (新)できるかぎりの情報をドキュメント化しよう
この新しい行動指針の裏にも、当然、仮説が隠れています。
早く成果物を共有して、早い段階でフィードバックをもらおう
- 成果物を共有したら、フィードバックがもらえる。
- 早い段階で成果物を共有すれば、認識のズレを減らせる。
できるかぎりの情報をドキュメント化しよう
- ドキュメント化されていれば、その情報を活かせる
- みんなが少しずつ努力すれば、隠れた知見をドキュメント化できる
行動指針は良くなったのか?
これで、人々はより動きやすくなったのでしょうか?
はじめの行動指針同様、多くの場面では期待通りに機能するかもしれませんが、以下のような問題も発生しそうです。
早く成果物を共有して、早い段階でフィードバックをもらおう
- 品質を重視していたときと比べて、品質が低いまま成果物がリリースされる。
- 成果物の作り込みが甘く、レビューが繰り返され、かえって時間がかかる。
できるかぎりの情報をドキュメント化しよう
- ドキュメントのメンテナンスコストが増大する。
- 新しい情報と古い情報が入り乱れて、どれが正しいかわからなくなる。
もちろん、良い効果もあります。
しかし、このような課題が顕在化したら、改善したくなります。
あるいはもしかすると、元の行動指針を策定した人は、ここにあげたような苦い思い出があり、それがきっかけで「品質重視」と「情報を取りに行く姿勢」を大切にしたのかもしれません。
古い仮説 vs 新しい仮説
これら新旧の行動指針を俯瞰してみると、相反する2つの価値観の対立関係にあることが分かります。
品質とスピード
- 一生懸命1週間かけて質の高いものを作っても、「全然違う」と言われて、手戻りが発生してしまうことがある。
- スピードを重視するあまり品質を軽視すると、やり直しが増えてかえって時間がかかったり、最終成果物の質が落ちることがある。
ドキュメントと主体性
- 「情報は取りに行け」と言っても、アクセス権がなく、「何がわからないかも分からない」人は、右往左往してしまう。
- 膨大なドキュメントを管理しようとすると、ドキュメントの管理に追われて、本来の仕事ができなくなる。
あちらを立てればこちらが立たず。私たちはどうすれば良いのでしょうか?
発展的解消という考え方
一見対立する二つの価値観を両立することは、哲学の分野において「発展的解消」「昇華」「アウフヘーベン(止揚)」「対立した矛盾の実現」などと言われます。
これはとても難しいのですが、現実世界にはこの「止揚」を実現したもので溢れています。
たとえば、Netflix に代表されるサブスクモデルでは、
- 購入: 自分のものになるが、高い
- レンタル 安いが、自分のものにならない
の「所有欲 vs コスト」の矛盾を、 「固定の月額で、膨大なライブラリにいつでもアクセスできる権利」 というモデルで、両立させています。
世の中は「止揚」で溢れているという事実に気づけば、どこかしらに解決策が隠れていることを信じて、思考を続けることができます。
相反する2つの仮説を踏まえた施策
では最後に、なんとか対立2つの価値観を両立してみましょう。
私なりの提案をしますが、正解は1つではないので、ぜひ皆さんも考えてみてください。

ペアワークしよう
- 早い段階で、依頼者とのペアワークの時間を持ち、求められる成果物の認識合わせをすることで、スピードと品質を両立できる。
成果物を作成するプロセスを共有することで、依頼者が言語化できていない要望もすり合わせることができます。 これにより、「質(完璧を目指す)」と「スピード(とりあえず出す)」という対立を乗り越え、認識のズレを早期に解消しつつ、効率的に品質を高めることができます 。
質問に答えてもらったら、文書にまとめよう
- 気軽に聞ける環境を作りながら、質問をした人は新しく獲得した知見を文書にまとめるようにすれば、主体性を引き出しながら質の高い文書を増やすことができる。
「気軽に聞ける環境(フロー)」を前提とすることで、誰もが情報にアクセスできる状態を作ります。 その上で、得られた知見を「文書化(ストック)」することで、「主体性(自分で取りに行く)」と「管理(ドキュメント整備)」という対立を統合し、個人の知見を組織の資産へと昇華させます 。
補足:学問的な視点から見る「仮説」
私の学問の師匠(南郷継正)は、
一般論(はじめの仮説)から出立し、すべての物事をその一般論で説明することを試み、事実と抽象の間を上り下りしながら、構造論(対象の論理的な構造はどうなっているか?)・現象論(現実の現象はどのように説明されるか?)を確立し、本質論(新しい仮説:対象の本質とは何か)に至る道が、学問の王道である。
というような事を述べています。
またドイツの哲学者ヘーゲルは、「プラトンの対話篇」の中に「滅ぼしあうような激しい闘論」の価値を見出しました。
自己否定をどれだけ繰り返し、それを乗り越えられるかが、本質を追求する道であり、仮説思考の真骨頂ですが、他者との激しい議論は、自己バイアスを排して自己否定する格好の場であり、他者からの反論に応えることは、自己否定を乗り越えて新しい仮説を見出すことに役立ちます。
私たちが仕事の中で行っている「隠れた仮説を疑い、新しい仮説を作る」という営みは、実はこうした学問的な真理探究のプロセスと同じ構造を持っているのかもしれません。そう考えると、日々の業務も少しアカデミックで面白いものに見えてきませんか?
まとめ
以上、具体例を用いて、仮説思考の有用性を紹介しました。この記事で私が見出した施策・仮説も正しいとは限りませんが、仮説を疑うことによって新しい視点を獲得し、真理へと一歩ずつ近づくことができるのではないかと思います。
最近だと、AIでこのあたりの壁打ちができるようになったので、便利です。人との議論と比べると、バイアスがかかりやすいというリスクがありますが、 「これまでの議論を、批判的立場・中立的立場で検証してください」 というようなプロンプトを使えば、自己否定をして新しい仮説を見出すのに役立ちます。良かったら試してみてください。
追記
... というような記事を書いたら、ビヘイビアチームの市川さんが「Devin を用いて、対立する要求の発展的解消を実現した」記事を書いてくれてました。 よかったら読んでみてください〜!
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