Inside of LOVOT

GROOVE X 技術ブログ

LOVOTのウェアについて ー 後編 ー

後編は「辰にっと」の製作現場のリポートをお送りしたいと思います。
まず最初に案内していただいた工場内部は、編立データをプログラミングしている部署です。島精機さんの開発した、最先端の設計ソフトは編み機と連動しているので、細やかなプログラミングが可能になっています。 写真の平石さんに(私達は勝手に「ニットの匠」と呼ばせていただいています笑)ホールガーメントの編地データの調整シミュレーションなども見せていただきました。ディスプレイに映っているデータ(写真左下)は、サンプル(写真右下)のホールガーメントの赤枠部分(お腹~横顔にかけた部分)の編みデータです。現物との違いにパッと見ただけでは脳中での変換が追いつきませんでした。。。

データを操作する「ニットの匠」こと平石さん
編地データと現物の編み上がり部分(赤枠)

続いて製造現場へ。
ずらりと自動編み機が並んでいる中の、ホールガーメントの自動編機では、ちょうど干支ウェアの「辰にっと」を編んでいる真っ最中でした。「ホール」というと丸いイメージが浮かぶかもしれませんが、実際は横長の機械に針が2列に並んでいて、表側と裏側を1本の糸を通して編み立てています。

次々と編み上がる「辰にっと」のボディ
この辰にっとは、ボディのお腹の部分にジャガード編み*1でウロコ柄を施したり、それぞれの細かいパーツ「背びれ&しっぽ」「ひげ」なども全て編地で作られているので、平石さんをはじめ小林メリヤスさんの高度な技術と知恵が、随所に詰め込まれているウェアなのです。(なのでお値段もそれなりになっております笑)各パーツはそれぞれに適した編み機で作られていて、最後に縫製で組み立てていきます。画像はツノと背びれの見本パーツと(左)、編み上がった「ツノ(中央)」「背びれ&しっぽ(右)」です。この編み上がったばかりのパーツは捨て糸(白い部分)*2でつながっているので、これを外して一つのパーツにしていきます。背びれとしっぽは繋がっていてるパーツなので、一度の縫製で背中に挟み込むことができます。
ツノと背びれ&しっぽの完成形(左)と成形前の各パーツ
続いては辰にっとの「ひげ」を編んでいる特殊な編機へ。
この編機は既に廃盤になってしまっている貴重な機種で、こちらの創業当時から大事にメンテナンスをして使い続けているそうです。編針の本数を調整し工夫することで、このような特殊な細いパーツを編むことができるそうです。右側の画像は、編み上がった紐状の編地を成形しているプレス機です。こうして出来上がったラメ糸入りの細い紐をカットして「ひげ」として本体に縫い付けます。まだ本体の試作を繰り返している時に、辰のひげを何で表現しようか、と木村社長に相談したら「細く編んだ紐を縫い付けるのはどうか」というアイディアをいただいた時は「え?ひげも編めるんですか?!」ととても驚いたことを覚えています。まさかこんな素敵なラメ入りの「ひげ」が出来上がるとは、その時は全く想像できませんでした。。。
「ひげ」を編んでいる特殊な編機(左)と成形しているプレス機(右)

続いては洗い&成形場へ。
洗い場には大きな洗濯機と乾燥機が並んでいました。編み上がった各パーツは、編地を安定させるために「洗い⇒乾燥⇒セット」を施します。それにより縫製後の仕上がりも安定し、縫製もしやすくなるそうです。洗いの水質は風合いに影響する為、それに適した水を購入する工場もあるそうなのですが、小林メリヤスさんの場合は、南アルプス山脈*3からの天然水(マグネシウムとカルシウムの含有量が少ない軟水)のお陰で、とても風合いよく仕上がるそうです。 もちろんニットは洗うと縮むので、最初のプログラミングの段階で縮み分も考慮し、風合いよく仕上がるように設計されています。しかし素材や編み方、気候などによっても縮み方も変化するので、熟練した職人さんの感覚で洗いと成形作業をしていきます。

洗濯機(左)乾燥機(中央)洗い加工後の比較

こうして成形された各パーツは縫製場へ。
先ほどからご紹介してきた「背びれ&しっぽ」「ひげ」などの各パーツを、成形された本体に縫い付けて「辰にっと」に組み立てていきます。そこそこ厚みのある柔らかい編地に、ニットの細かいパーツを伸ばさずミシンで縫製することは、かなり難しい作業だということが容易に想像していただけると思いますが「縫製の匠たち」の技によって、指示寸法通りにきれいに縫い上げられています。 特にこの特殊なひげ(立体的な細い紐)の縫い付けを担当されている、縫製班長の八巻さんのミシン技は目を見張る仕上がりになっていますので、機会があればぜひ実物をご覧になっていただきたいと思います笑。(ちなみになんと「ツノ」は手縫いで付けられているのです!)

縫い付けた「ひげ」と縫い込んだ「背びれ&しっぽ」
そしてLOVOTのホールガーメントは、丸いボディにフィットするように、顔周りや底面などをシャーリングゴム(細い丸ゴム)で縫い縮めたり、着脱用のリングを付ける工程もプラスされるので、かなり縫製工程の多いニットウェアということになるのです。
「背びれ&しっぽ」の挟み込みを行う八巻さん(左)顔周りのゴムの縫い付け(右)
そして最終段階の仕上げの現場。
こちらでは縫い上がった商品の糸処理を行っていました。ニットならではの作業になり、編地の裏側にかぎ針で糸端を引き込み、ほつれないようにきれいに始末していくので、機械ではできないとても細かい手作業になります。 ちなみにこの辰にっとは縫製箇所も多いため、30か所以上の糸始末があるそうです泣。この様な様々な工程と丁寧な仕上作業を経て、やっっと一枚の「辰にっと」が完成するのです。。。
「辰にっと」のお腹裏のシャーリングゴムの糸始末

ということで。
かいつまんでですが、干支ウェア「辰にっと」の製作現場のリポートをお送りいたしました。前編のウェアの説明から始まり、かなりの長文になってしまいましたが、ブログ読者の皆様とLOVOTに興味を持っていただいている方々に、少しでも服作りの現場の雰囲気が伝わっていれば幸いです。

おわりに

私達服チームのメンバーも、この様な貴重な服作りの現場を体験させていただいたことにより、改めて「モノづくり」についていろいろ勉強することができました。(正に「百聞は一見にしかず」でした) また木村社長をはじめ、小林メリヤスのみなさまのLOVOT愛と、全ての熟練職人さん達の「技術&知識&情熱」の支えがあるからこそ、この様な複雑なLOVOTウェアが作れるんだなと、このブログを書きながらもしみじみ実感しております。。。

そしてLOVOTの服作りに携わっていただいている全ての方々の思いと、服チームのこだわりと思いが、お洋服を買って下さっているお客様に伝わりますように…。という願いを胸に、また新たな商品開発に励んでいきたいと思っております。そしてこの場をお借りして、いつも支えていただいている取引先様、また小林メリヤスの皆様にも改めて感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

そしてそして、このイレギュラーなテックブログを読んでいただいた皆様にも笑。
最後まで読んで下さりありがとうございました。(おわり )

*1:糸を編む段階で柄を出していくもの。立体感を出すことや柄に深みを出すことが可能になる

*2:編みのループの長さや張りの強度等を自動で調整した試し編みの残りの部分

*3:赤石山脈と呼ばれる、長野、山梨、静岡に跨って連なる山脈。飛騨山脈、木曽山脈を合わせ日本アルプスとも呼ばれている