こんにちは、SWチームのプロダクトオーナーをやっている よっき です。
2024/10/22-24で Certified ScrumMaster® + Certified LeSS Basicsという研修を受けてきました。ソフトウェア開発手法の一つであるスクラム開発の中のスクラムマスターという役割における研修です。
今回は研修を受けて、私が特に印象に残っている部分を中心にブログにまとめてみます。
研修でやったこと:主体的学びのグループワーク
最初にスクラムマスターの役割とは何なのかを簡単に紹介しておきます。
スクラムマスターは、スクラムガイドで定義されたスクラムを確立させることの結果に責任を持つ。そのために、スクラムチームと組織において、スクラムの理論とプラクティスを全員に理解してもらえるように支援することで、その責任を果たす。
(出典:スクラムガイド)
役割の中にスクラムガイドという言葉が出てきているくらいスクラムガイドの熟読が必須になっていますね。この研修でやったこともスクラムガイドとその前提となるアジャイルソフトウェア宣言の2つを理解することに尽きます。
これらの資料はリンクを張ったようにオープンに公開されています。これを読んで理解して、実践で難なく熟せていたら、この研修を受ける必要はありません。もうスクラムマスター認定です!
でも、多分そんな人はなかなかいないと思います。それほどにスクラムマスターは難しい。だからこの研修では、言葉だけでは汲み取れない意味をグループワークや極端な例の動画を見ながらみんなで理解し合う、ということをやっていたように思います。そしてこの「みんなで理解し合う」という場を作ること自体が、スクラムマスターに求められる要素の一つであることに研修を通して気付かされました。
どういうことかと言うと、スクラムマスターの役割である「スクラムの理論とプラクティスを全員に理解してもらうことを支援すること」。その支援のやり方として学びの場の提供があり、これを講師のMJさんが実際に我々に示してくれました。
では、どういう学びの場がよいのか。
研修の学びの場作りとして私がすごいなと思ったのが、スクラムガイドを読んでクイズを自分たちで作って、他のグループとクイズを出し合うというグループワーク。このグループワークの何がすごいって、講師(MJさん)がスクラムガイドをほぼ説明しなくても、みんなが自ら読んで相互に理解し合おうと勝手に勉強していくグループワークになっていること。通常だと講師が大事だと思うところを先に講義することが多いですが、あえて講師は何も言わず、すべてを受講生に任せたところがほんとに素晴らしいかったです(多少の知識がある前提でやったのかもしれませんが)。
みんなが大事だと思うところを自主的に考えて、グループ(チーム)で理解し合っていく。理解力、チーム力、そして考える力を養えるすごくいいグループワークだと感心しました。これぞ主体的な学び!という感じでした。
学校の授業もこういう授業だと、楽しいし、理解も進むし、仲間意識も生まれるしで、素敵な学校生活になりそうです。こんな授業をする先生に出会えると生徒も幸せだろうな。
スクラム開発と民主主義
ちょうどこの研修を受講しているとき、日本は選挙ムードになりつつありました。私も選挙に向けて、民主主義の勉強をしようと以下の本を読んでいる最中でした。
そしたらなんと、スクラム開発と民主主義が似ているところが多く、もしかしたらスクラム開発はプロダクト開発というものを自分たちのものにするための方法論なんじゃないかと思い始めました。その理由を書いていきます
まず、民主主義がどういう流れで広まってきているかの私なりの解釈を簡単に書きます(詳しくは本を読んでください。)
- 絶対王政(独裁政治)から主権を民衆側に取り戻そうとする運動
- 独裁者にすべての意思決定を任せると、独裁者の決定が間違った場合に致命的な問題が生じる可能性がある(逆に善良かつ優秀な独裁者であれば決定を任せてもいいかもしれない)
- 過去の歴史を見て、仮に善良かつ優秀な独裁者が現れたとしても、次の主権者が善良かつ優秀とは限らない(そして大抵の場合は主権者争いが起こり、それが政治的に決まると無能な主権者になってしまう)
- 無能な主権者に意思決定を委ねるくらいなら、自分たちで物事を決めていったほうがよい
ということで、フランス革命以降、「自分たちの国は自分たちで作ろう」という動きが活発化して、民主主義が近代に広がり始めたという理解をしています。
この流れをプロダクト開発に当てはめると、
- マネージャーから主権をプロダクト開発チームに取り戻そうとする運動
- マネージャーにすべてを意思決定を任せると、マネージャーの決定が間違った場合に致命的な問題が生じる可能性がある
- 過去の歴史は、、、(割愛)
- 無能なマネージャーに意思決定を委ねるくらいなら、自分たちでプロダクト開発のやり方を決めていった方がよい
という感じで、ウォーターフォール開発の反省からプロダクト開発のやり方を自分たちに取り戻そうという運動だと解釈すると、民主主義運動と似てると言えそうです。
これを表しているスクラムガイドの以下の一文がこちら
スクラムチームは、(中略)プロダクトに関して必要となり得るすべての活動に責任を持つ。スクラムチームは、自分たちで作業を管理できるように組織によって構成され、その権限が与えられる。
(出典:スクラムガイド)
スクラムチームはプロダクト開発においてすべてのことをやってよいのであって、他の誰かに決定を委ねてはいけないのです。自分たちで考えて決めていく、というのがまさに民主主義っぽい感じがします。
ただ、民主主義は一般に意思決定が遅いと言われています。それに引き換えスクラム開発は複雑な問題への対応として変化に追従することを重視します。この違いは何かと考えると、意思決定をする人数なんじゃないかなと思います。
以下、またまたスクラムガイドの引用です。
スクラムチームの人数を、敏捷性を維持するための十分な小ささと、スプリント内で重要な作業を完了するための十分な大きさが必要で、通常は10人以下である。一般に小さいチームのほうがコミュニケーションがうまく、生産性が高いことがわかっている。スクラムチームが大きくなりすぎる場合は、同じプロダクトに専念した、複数のまとまりのあるスクラムチームに再編成することを検討する必要がある。
(出典:スクラムガイド)
このスクラムガイドの人数の知見は結構面白くて、「自分たち」を考えられる範囲の限界を示唆しているように思います。民主主義も国全体で考えるから難しいのであって、まずは自分の手の届くコミュニティから作っていけるといいのかな、なんて思います。
なぜ自分たちで考えて決めることがよいことなのか
では、なぜ自分たちで考えて決めていくことが良いのか、をもう少し考えてみたいと思います。民主主義と似てるからと言って、プロダクト開発で民主主義っぽいことをする必要性は全くないはずです。ただ、私はこの「自分たちで考えて決めていく」ということに希望があると思っています。
それは「自分たちで考えて決めていくこと」がよく生きることにつながり、そして幸福につながるからだと考えているからです。
ここで私が最近読んだ教育学者の汐見先生の本「教えから学びへ」という本から少し引用します。
「なぜ人は学ぶのか」「何のために学ぶのか」を問うことは、「どう生きるか」を問うことです。「生きているっていいな」と心から思えるようになるためには、「自分の自己実現」と「社会の自己実現」をつなげることが必要でした。(中略)自分が属している社会を、みんなが上手に幸せを追求できる社会に変えていこうとすれば、私たちは安心して生きられる社会を作ることができるのです。誰もがその主体に、小さな主体になればいいのです。それは、自分の幸せとも深くつながっています。
(出典:「教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと」汐見稔幸)
小さくても社会に対して主体的に行動することが自分の幸せにつながっている。この主体的に行動することが「自分たちで考えて決めていくこと」そのものであり、私たちが働く上で大事にすべき要素なんじゃないかなと思います。
こう考えた時に、スクラム開発におけるプロダクトバックログ(PBI)の分解をINVEST(独立、交渉可能で、価値があり、見積もりができ、小さく、テストできる)の観点で分解することはとても意味のある作業だなと思えてきます。
いろんな制約条件があって、それを踏まえると、こうした方がよいとか、まずはこれをしよう、みたいな思考をしてしまいがちだけど、PBIではそれをぐっとこらえて価値のみにフォーカスして、それ単独で価値のあるものにしか分解しない。これは開発チームが「自分たちで考えて決めていくこと」を保証することであり、開発チームが小さな主体として社会にアプローチする余白になります。この余白を作れるかがPBI分解の肝であり、幸せに働ける鍵になると私は思います。
今回の研修でもPBI分解のグループワークをやりましたが、自分が全然INVESTで分解できないことに気付かされました。これは考え方を変えないとできないかもしれないので練習あるのみです。
以下にグループワークでやった課題を貼っておきます。みなさんならどう分解しますでしょうか?
最後に
スクラム開発の凄さが伝わりましたでしょうか?働くことを問い直す素晴らしいフレームワークでしたね。 この記事を読んで、スクラム開発をやってみたいと思った方、ぜひGROOVE Xで一緒に働いてみませんか。スクラムマスターも募集しています。
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